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それは数日前のこと。
その日の授業が昼からの一時間しかなかった俺は、少し遅めに家を出てのんびりと大学構内を歩いていた。
そして
唐突に感じる強烈な視線。
びくりとしながらあたりを見回して、ふと気付く。
植え込みの付近からちらりと覗く小さな黒猫に。
昔から猫は大好きで、実家でも猫を飼ったことがあった。随分可愛がったものだが、あえなく大学一年の頃に死んでしまったことをぼんやり思い出して、たまらなく懐かしくなってしばらくその猫と戯れていた。
喉を掻いてやり、背を撫でてやり、しゃがみこんで五分ほど。
とはいえ、授業時間も迫ってくる。猫にごめんなと呟き、俺は授業に行くべく立ち上がって歩き出した。
その直後背中にものすごく不思議な衝撃を感じて立ち止まるまでは。
振り返れば一応買ったばかりではあるトレーナーに思い切り爪を立てる黒猫。
足元に置いて歩き出そうとするたびに纏わり付いて歩けなくしてくれる黒猫。
終いには俺の足の上で丸くなる黒猫。
可愛いーと言いながら明らかに他人事として過ぎ去っていかれる方々。
だ、だれか、たすけ・・・;
言うまでもないことではあるが。
その日の出席に俺の名が記されることはなかった・・・